現場通信 FILE 07
全国各地の安全を支える縁の下の力持ち、”現地踏査”の専門部署

技術部 開発調査課

鈴木 敦ATSUSHI SUZUKI

防災構造物を設計するにあたり、最初にやらなければならないのが「現地踏査」です。現地踏査とは、現場(山や斜面)を歩き、落石や地すべりの危険性を調査すること。地形の凹凸や周辺の斜面状況、そして不安定な岩塊(浮石や転石)を目視で確認していきます。

これまで日本サミコンでは、この現地踏査を支店ごとに行っていました。しかし、2020年4月から現地踏査の専門部署を新設。各支店から現地踏査のノウハウを吸い上げながら、情報共有や進捗管理を統括しています。今回は新部署設立の目的や、新しいやり方へと移行していくうえでの苦労を、技術部 開発調査課の鈴木さんに伺いました。

効率化を目的に、支店間でノウハウを共有する

――現地踏査の専門部署を新設したのはなぜですか?

直接の目的は、現地踏査の効率化です。今までのやり方、つまり支店ごとに現地踏査を任せるやり方だと、支店ごとの「バラつき」が出ます。例えば新潟と島根では、現地踏査のルールも、出来上がる資料も違ったものになるのです。

――今まで、社内ルールや業界の慣例のようなものはなかったのでしょうか?

もちろん、あるにはあります。ただ、厳密なルールやマニュアルのようなものはありません。私たちは現地踏査のことを「山歩き」と呼んでいます。それは調査員が実際に山を歩き回り、気になる箇所を見つけ、1箇所ずつ詳しく調べているからです。たしかに「こんな場所は気を付けて見よう」とか「こんなことに気を付けながら歩こう」ということは言えますが、どうしても勘や経験に頼る部分は出てきます。

――なるほど、言葉やマニュアルでは伝えきれない部分があるのですね。

その通りです。実際に山を歩き回り、様々なケースを見て、自分の頭で考える経験が必要なのです。職人の師弟関係のようなもので、チームで現場を調査しながら、技術や知恵を伝え合ってきました。

――今までは支店内でしか共有できていなかったノウハウを、全国ネットワークで共有しようというわけですね?

はい、そうすることで人材も育ちますし、全国でやり方を統一できます。私たちはより効率的な現地踏査が可能となり、お客様にはより高いレベルの提案ができるようになります。

苦労も多いが、やりがいも大きい

――とはいえ、まだまだ設立したばかりの部署…。苦労も多いのではないですか?

はい、苦労は絶えませんよ(笑)。ですが、今まで以上にやりがいも増えました。新部署を設立してわかったのですが、それぞれの地域に特色がありますし、支店ごとに様々な調査員がいるのです。

――地域ごとの特色ですか。例えば先ほどお話に出た島根県には、どのような特色があるのでしょうか?

島根は特徴的で面白いですよ。だいたいの地域には大きなゼネコンがあって、そのゼネコンから、各分野の業者へと発注されていくイメージですね。

一方、島根は大手ゼネコンに仕事が集まるのではなく、中小規模のコンサル会社に仕事が分散しています。個人や小さな会社としてやっている業者が多いからでしょうね。もちろん、業者ごとに考え方もノウハウも異なりますから、新しい考えに触れられることも多いです。

――そのような地域ごとの「生の情報」が集まってくるわけですね。支店ごとに様々な調査員がいるとも伺いましたが、そこにも地域ごとの特色があるのでしょうか?

いえ、調査員は地域の特色というよりも、個性的な方が多いなという印象です。新部署には、各支店から優秀な調査員が集まっています。そういう人たちは仕事が楽しくて仕方ないから、様々なアイデアを出してくれたり、プライベートで得た知識や技術を仕事に役立てようとしたり…。

例えば北海道出身の調査員には、ドローンが趣味の方がいて、ドローンを使ってより効率的に現地踏査ができないかと考えています。私もロープアクセス(ロープを使い、様々な場所に移動する技術)が好きで、これを現地踏査に活かせないか、よく考えます。

――これまでは中々行けなかった場所も、詳しく調査できそうですね。

どちらの意見も、まだ実用段階ではありません。ですが、実際の調査に活かせるように試行錯誤や議論は重ね続けています。できることがどんどん増えたり、自分のアイデアや知識を活かせたり、やりがいのある部署ですよ。何より、自分の足で歩いた山に構造物を入れられるのは楽しいです。「山歩き」といっても立ち止まって調査することが多いので、多くの方がイメージするほど、しんどくありませんしね。

編集後記

効率化を目的とした新部署設立ですが、新しいやり方に慣れ、効率化の成果が出るのは先になりそうです。今は多少効率が落ちても、メンバーの意見に耳を傾け検討していくことが、業務の効率と品質の向上につながるはずです。

文・現場通信編集部